荻原 尚志
 
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Abstract
上腕骨外科頚骨折は高齢者に多く発生し、一般に保存療法が第1選択になる。しかし、骨折部が不安定な場合には長期間の固定を必要とし、肩間節の拘縮を残すことになる。我々は転位を伴う不安定な上腕骨外科頚骨折に対して後方刺入によるEnder釘を用いた内固定を行い、良好な成績を得ている。手術手技の詳細を紹介し、我々の症例の成績について述べる。 

 
はじめに

上腕骨外科頚骨折は高齢者に多く発生し、一般に保存療法が第1選択となる。しかし、転位を伴った骨折で整復が得られても骨折部が不安定な場合には長期間の固定を必要とし、肩間節の拘縮を残すことになる。我々は転位を伴う不安定な上腕骨外科頚骨折に対し、後方刺入を用いたEnder釘による内固定と早期他動運動を行なってきた1)2)。本稿では手術手技の詳細を紹介し、これまでの我々の症例の成績についてのべる。

 
手術適応
Ender釘の手術適応はNeerの基準に従っている。X線像で骨折部の側方転位が1cm以上または角状変形が45°以上で、徒手整復後も骨折部が不安定な症例である3)。
 
方法
1. 準備

上腕、下腿用の Ender釘(直径3.5mm、長径22〜26cm)でほとんどの症例は手術可能である。しかし、長身の患者の場合、 Ender釘の長径がたりない可能性がある。その時は直径4mmの釘を準備する。X線像での計測では誤差が生じやすいので、あらかじめ上腕の実測を行っておくのが望ましい。各サイズの Ender釘を最低3本ずつ準備する。また刺入口を開けるためにドリル、丸ノミ、平ノミおよびオ−ルを用意する。

2. 体位

全身麻酔下に行う。体位は仰臥位でも側臥位でもよい。筆者は最近は側臥位で行っている(図1-a)。

3. 手術方法
肘関節後方の肘頭窩の上に約6cmの縦皮切を加えて上腕三頭筋を露出、筋膜を縦割して肘頭窩直上に達する。開創器で術野を広げ、肘頭窩直上に幅1cm、長さ3cmの楕円形の刺入口を作製する(図1-b)針は1本はオリジナルの弯曲のまま用いるが、他の釘は先がラッパ状に開くことを想定しベンダ−を用いてあらかじめ弯曲を変えておく(図2)。あらかじめ髄内腔の広さに応じて打ち込む釘の本数を決定しておく。すべての釘を順次に打ち込むが、その際、骨折部の手前で一時打ち込みを止めておく。筆者らが打ち込む Ender釘は3本の場合がもっとも多い。最近はこの段階で釘基部の穴に締結鋼線をあらかじめ通しておく、その後、骨折部の整復位を保持して一気に全部の釘が骨折部を通過するように前進させる。肘を伸展させた時に肘頭が釘にあたらないことを確認し、先に釘の穴に通しておいた締結鋼線を締める。締結鋼線によって釘は安定化し、backing out を防止できる。骨折部の安定性を透視下に確認した後、創を閉鎖する2)4)。
4.後療法
術後は上腕下垂位として三角巾で外固定する。術中に骨折部の安定性が良好であると判断された場合は、術後1週間以内に肩関節と肘関節の他動運動を開始する。開始時は肩の挙上は90°以内、外旋は20°以内に制限し、疼痛の生じない範囲で無理せずに他動運動を行っていく。疼痛がなく、再転位が生じないことを確認した上で、術後2〜3週間ころから自動運動を加えていく。術中に固定性が弱いと判断された症例は骨折部が安定化するまで他動運動を遅らせる。
 
症例と結果

これまでに36例に本法を施行した。年齢は48歳から86歳(平均70歳)、性別は女性31例、男性5例である。左右はともに18例ずつで両側例はない。経過観察期間は6か月から22か月(平均10か月)である。

36例中34例に良好な経過で骨癒合を得た。1例は、術中に安定であると判断し早期他動運動を行ったが術後4週で釘の cut out を生じ偽関節となった。もう1例は退院してリハビリテーションを行っていたが術後2か月後に転倒し、釘の刺入口で顆上骨折を起こしたため針を抜去して保存的に加療した。残る34例のうち25例は2週間以内に他動運動の開始が可能であった。骨癒合期間は4週から10週(平均5.9週)であった。Ender釘数は2本から5本(平均2.9本)であった。最終観察時の肩関節の挙上は90°から170°(平均130.0°)、外旋は10°から70°(平均44.4°)、内旋はL5以上L1以下が19例、Th12以上が15例であった。肘関節の屈曲は125°から150°(平均141.6°)、伸展は−25°から0°(平均−4.3°)であった(図3)。

 
考察
上腕骨外科頚骨折の治療法は保存療法、手術療法ともに多数の方法が報告されている5)〜8)。転位を伴う外科頚骨折の場合、整復位の保持が安定すれば保存療法によって良好な成績を得ることができる。しかし、転位の大きい不安定な骨折を良好な位置に保持するためには厳重な外固定が必要になり、そのために肩関節の拘縮が発生することが少なくない。一方、手術療法で、骨折部を露出して内固定する方法では肩関節周囲組織の術後の癒着が問題となる。さらに骨粗鬆症を伴っていると、強固な内固定材料を用いても骨片を十分に整復位に保持できず、早期に強力な他動運動を行うことは困難である6)7)。経皮的ピン刺入による固定法として創外固定法があるが、骨粗鬆症を伴っているとピンの保持能力が低下する。また、ADL上快適とは言えない9)。

これらの方法と比較して Ender釘による骨接合術は、原則として閉鎖的に行い肩関節周囲組織を損傷することなく、また手技的に容易である。骨粗鬆症を伴う症例に対しても釘の先端を十分開くことにより比較的強固な固定性を得ることができる。本法の最大の利点は、(1)術後に得られる除痛効果、(2)不安定な骨折の安定化、(3)拘縮が出現する前に早期に他動運動が可能となることである。また、手術後に骨折部の安定性が十分に得られなかった場合でも除痛効果は認められる。また良好な整復位が保持されているため、術後2〜4週間の簡単な外固定で骨折部の安定化を得ることが可能である。

我々の症例の平均年齢は70歳であるが、術後合併症を発生した2例を除く34例中25例で、術後2週間以内に他動運動を開始することができた。骨癒合後に得られた可動域は挙上が平均130.0°、外旋は平均44.4°と好成績を得た。高齢者においても早期に他動運動を開始することにより良好な肩関節機能を保持することができると考えられる。

Ender釘の刺入口については肘頭窩直上と、両顆部からの2通りが報告されている。手技の容易さと、術後の肘関節の可動性に与える影響を考えた場合、 肘頭窩直上に刺入口をつくるのが有利と考えている。我々の症例では肘関節の疼痛はほとんど認めず、可動域制限も軽度であった。
 
まとめ

転位を伴う不安定な上腕骨外科頚骨折に対し Ender釘による骨接合術は有用である。特に高齢者の骨粗鬆症を伴う症例においては、 Ender釘による内固定によって良好な固定性を得ることが可能である。したがって術後の早期他動運動を行うことによって、良好な肩関節機能を保持することが可能となる。

 
文献
1) 青木光広ほか:高齢者の上腕肩外科頚骨折に対する Ender釘の術後成績.
別冊整形外科. 21:35-39,1992
2) 荻原尚志ほか:上腕骨近位端骨折; Ender釘による固定法.OS NOW.15,肩関節疾患の手術療法(松崎昭夫編)、61-69、メジカルビュー、1994.
3)  
4)  
5) 遠藤寿男:上腕骨近位端骨折の保存的療法. 整・災外. 30:357-364,1987.
6) 野村茂治ほか:上腕骨近位端骨折の観血的治療の適応と問題点. 整・災外. 30:365-379,1987
7)

肱岡昭彦ほか:上腕骨近位端骨折観血的治療例の検討 Part1. 整・災外.31:813−817 , 1988 .

8)  
9)  
 
UPDATE
上腕骨外科頚骨折に対するEnder釘の手段、追補
Ender釘の種類が増えたり、私自身も手技を改良しています。
 

1.

釘の刺入口は、サージエアートームを使えば、非常に短時間に適切な穴を開けることができます。
2. Dr. Ender がφ3、0mm、φ3、5mmの上腕用の釘を新たにつくりました。かなり長いものまでつくったようですので、長身の病例にも不自由しなくなりました。ミズホでとりあつかっています。
3. 整復困難例について
  1. 骨折部に小切開を加える
  2. どうしても一本ずつ刺入せざるを得ないこともあります。その場合、基部の締結鋼線を通せないがやむを得ません。
 
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